魔法の機械

 

昔、私の家には自営業をやっていたこともあって、タバコの自販機が2つと飲料の自販機が1つ置いてあった。

 

当然ながらタバコの自販機には一切興味が無かったが、子供の頃の私にとって飲料の自販機は魔法の機械で、それが自分の家にあるなんてもうそれはそれは夢のような心ときめく話だった。しかも自分の家に置いてある自販機なのだから、お金を入れてジュースを買っても、そのお金は自分の家に入ってくる。実質タダのようなものだ。なんて素敵なんだろうとわくわくしながらいつも自販機を眺めていた。

 

その中でも一際、私の胸をときめかせ踊らせる飲み物があった。それは「メロンクリームソーダ」だった。

 

メロンクリームソーダ、なんて贅沢な素敵な響きだろう。「メロン」「クリーム」「ソーダ」単語ひとつひとつとっても魅力的なのに、それを全てひとまとめにした飲み物が存在するなんて。

 

私は自分の家にある自販機に売っているメロンクリームソーダが飲みたくて飲みたくて仕方がなかった。しかしその頃、私の親はそんな体に悪いものを!と、市販のジュースを飲むことを許してくれなかった。ジュースといえば、手作りの八朔を絞って砂糖を入れたオレンジジュースもどきや、シロップにつけた梅を水で割った梅ジュースだった。

 

今思えば、それはそれで贅沢なのかもしれないが、当時はせっかくお金が戻ってくる自販機があるのに、飲み放題みたいなものなのに、どうして飲ましてくれないんだろうと憤慨していた記憶がある。

 

結局、その自販機でジュースを飲んだ記憶はない。

 

ただ今でも缶ジュースのメロンクリームソーダをみるとあの当時の特別にときめいた気持ちが蘇ってくる。

 

今週のお題「お気に入りの飲み物」