跡取り娘

私は地方出身なのだが今は親元を離れ、他府県で暮らしている。

 

私は一人っ子で、跡取り娘として育てられた。両親にはずっと家を継いでほしいと言われていた。私の場合、家を継ぐということは家名を継ぐ・存続させることであり、同時に家やお墓を守ることである。

 

私は両親に小さい頃からずっと言われてきたこともあって、これが当たり前で誰しもが担う責任なのだと思っていた。

 

しかし、親元を離れ都市に住むと、家を継ぐことはメジャーではなく、むしろマイナーであることに気づいた。周りで家を継がなければならないなんて話している人は誰もいなかったし、家を継げと言われていると話すと家業を継ぐことなのかと聞かれ、あまり理解してもらえなかった。(この辺は地方と都会の違いがあるのかもしれないが。)

 

さらに男女平等と言われる時代ではあるものの、婿養子をもらうケースは確率的に低いことも知った。家やお墓の手入れ、ゆくゆくそれらをどうしていくのか考えねばならず、デメリットも多いことに気づいた。

 

そうなるともう家なんて継ぎたくなくなってくる。他の子たちはお嫁さんとして結婚できるのに、私は好きな人ができても、長男か一人っ子か気にし、婿養子にきてくれるのかと気にしなければならない、家やお墓の心配をしなければならないと、不満ばかりが募った。当時付き合っていた人が一人っ子という理由で親に反対されていたこともあって、家は継がないと反発した。

 

親は激怒した。私も譲らなかった。

 

そうして折り合いはつかない中、私は社会人になり、地元から離れたまま働き始めた。給料は低く、ほとんどが一人暮らしの生活費に飛んでいき、なかなか貯金はできなかった。会社はやりたくて入ったわけではなく、仕事にやりがいもなかなか感じられない。1年目にして早くも無理して一人暮らしをして働く必要があるのかと迷い始めていた。

 

そんな中、父親が倒れたと連絡が入った。命に別状はなかったが、高齢によるものだった。

 

父が倒れたことを聞いたときに、真っ先に考えたのはもし父が今亡くなったとして、自分が家のことを引き受けられるのか、ちゃんとやっていけるのかということだった。

 

それはごくごく自然に出た考えだった。今思えばとても意外だった。家を継ぐことが嫌で反発してきたが、どこかで家を継ぐことを受け入れている自分がいることを知った瞬間だった。

 

 

今、地元に帰るかどうかは正直迷っている。親のことは心配であるけれど、仕事も2年目に入り、任されることも多くなってやりがいも増えてきた。反発していた頃に付き合っていた人との関係もまだ続いており、相変わらず親には反対されている。

 

しかしどのような形になっても私は親と家のことを心のどこかで気にかけているんだろうなと思う。心の片隅であれ、気にかけていれば迷ったとしても決して何かを蔑ろにするような決断にはならないはずだ。と思い始めた今日この頃。